赤を見た。立ち止まる。
青を見る。歩き出す。
今日の空はピンク。きれいに焼けた空。
道路の中ほどでみとれてしまったが、クラクションで急かされる。
慌てて駆けた。
もう一度見上げると、ピンクの中に鳥が一羽。
「何色?」 そう思って、目を凝らす。
黒。カラスだ。
確認して、再び視界を"絞る"。
僕の目には『一度に一つの色しか映らない』。
理由は知らない。
何かの病気だとしても、目・神経・脳などいろんな可能性が考えられそうだ。
別に興味はなかったから、それで良かった。
理由を考えて頭を捻るより、色を確認する方に使いたかった。
想像するほど不便でもない。
困るのは、カラフルなものを見る時と、グレーのものを見るときだ。
見ている色以外はすべて無彩色<モノクロ>だ。何十年か前の映画だ。
だから、グレーが目立たなくなる。
なんだか、その光景の雰囲気ほど退屈ではなかった。
妙に楽しんでいる自分がいた。
この目にはヒトの上辺の色が映らない。
だから、ヒトの"奥底の色"が見える。
それが怖くもあり、また退屈しない理由だった。
なんだか、周りのヒトが可哀想に思えた。
一度にたくさんの色を見て、それで分かった気になる。
一色ずつに分けて見ると、なんだが機械を分解して仕組みを理解する気分だ。
そうやって考えてないと、自分が損した気分でどうしようもなくイヤだったから、
そう思うことに決めているのである。
家に着く。
家具は白、黒、グレーで統一している。
当然必要がないから。
今日もたくさんの色を見た。
今日は幾分青が多かったように思えた。
寝ようとライトに手を伸ばす。
同時に瞳を閉じても、やっぱり黒と白のモノクロの世界だった。