3.

気付けば、空はオレンジに焼けていた。
昔、「太陽は最高の画家で 空は最高のキャンパス、雲は最高の絵の具」と言葉を聞いた覚えがあるが、
本当にその通りだと思う。
鮮やかな光が全てを染め、眼科の金属的な街を一気に芸術作品に変えている。 
1日が終わり、帰路につく人影も見えはじめた。

「桧山<ヒヤマ>!」
急に担任の野上<ノガミ>に呼ばれ、昇平―――桧山 昇平―――は前を向いた。
昨日も服装のコトでどやされたばかりだから、どうせつまらない話だろうと思った。
「―――――おまえ、生徒会に入らないか?」
「・・・・・え?」
まったく予想外な話だったので、昇平は質問で返してしまった。
「ウチの生徒会なら、お前みたいなヤツでも充分居やすいだろ?」
麻坂高は、「生徒会」が教師からほとんど独立していて、生徒のみの活動も少なくない。
そのため、生徒会は信頼度が高く,情報伝達のネットワークがうまく組まれ、
情報を行き渡らせるのがとても速い。
しかし、流石に仕事も多く、例年のように役員不足なのである。
今が11月27日だから、生徒会が昇平たち2年生の代に代わってまだ1ヶ月も経っていない。
そんなうちから話すということは、きっと今年も人数が足りないんだろう。
ボタンを2つも開けたままの学ランに目もくれないくらいだから、よほど急ぎに違いない。
「今、何人なんすか、役員?」
「・・・2人だ。」
昇平は驚いた。代が代わる直前までは役員は15近くいたらしいが、2年生に代わってからの一ヶ月、まったく生徒会の機能は鈍ってはいない。
と、いうことは、15人分の仕事を2人でこなしている、ということだ。
―――――――どんなヤツなんだろ。
昇平に好奇心がわくのと同時に、既に口からは返事が出ていた。
「考えてみます。・・・・とりあえず、今日行ってみますね。」
わかった、とうなずいて野上は背を向けた。
慣れない敬語で妙に力が入ってしまった。昇平は"あんなヤツラ"に敬語を使うのはバカらしいが、
そのことで説教を食らうのはもっとバカらしいとわかっていた。

"生徒会会議室"の文字の前に立って、昇平は異様な雰囲気に気付き、緊張してしまった。
いつも登校時間に見るそれとは別物だった。
昇平はボタンを1つ閉めてからドアをノックした。
人から注意されないのにボタンをとめたのは、かなり久しぶりのことだった。



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