3.

12月16日。期末テスト最終日。
切り裂くスピードで、チャイムが響いた。昇平は一瞬緊張したが、すぐ糸が切れた。
期末テスト。
少し前までは聞きたくない単語であったが、今はもう、そうではなかった。
それ以上にウェイトの高い出来事が起こりすぎだ。
目を横にやると、窓枠の下にたくさんラクガキがある。
その中のひとつに、とてもラクガキとは思えないクオリティの絵がある。
紋章のようなそれの周りには・・・・・・"Black Shark"。"黒いサメ"か・・・。

すっかり気が散ってしまっていた昇平は、前からテスト用紙が回ってくるのにやっと気がついた。
出席番号順に並ぶと、昇平の前はいつも空く。
2年になってから一度も来ていない仲屋<ナカヤ>の席だ。
その前の戸部<トベ>が、身を乗り出してプリントを回す。

チャイムが鳴る。さっきよりも格段に遅く、長く感じる。
余った15分間で寝ていた昇平は、その音で目が覚めた。
少し友達と話してから、席を立ってカバンを持ち上げた。
カバンにつけたチェーンが机に擦れて、金属音が響いた。
教室を出て、階段を駆け下りる。
いつもは生徒会室に行くため右折するつきあたりを、左に曲がる。
"放送室" その表記を確認して、昇平はドアノブを回した。
『ガチャチャ』 開く時と違う、詰まった音。明らかにおかしな手応え。
―――なんだ、まだなのか・・・。――― 思った矢先に、声が聞こえた。
「ごめん、今開けるよ。」 茂流が後ろから走ってくる。
その声、足音が妙に明るく聞こえて、昇平は一歩後ずさりしてしまった。

カギを開けて中に入ると、わかりやすい埃っぽさがあった。
昇平は思わずくしゃみをした。
電気をつけると、ゴタゴタした機械が並んでいる。壁は、放送室らしく防音のようだ。
「・・・まぁ、今日ホントに教員全員いないのか?」 不安げな昇平。
「大丈夫だって。校長まで出張するような大事な予定なんだから。それに・・・。」
言葉を遮ってドアの音がした・・・真音が入ってきて即座に言う。
「大丈夫だったよ。」
昇平は納得した。見回りをしたなら安心だ。
「・・・じゃ、始めるか。」
返事をする代わりに頷いてから、茂流は"チャイム"のボタンに手を伸ばす。

大きめなエンジン音 ―――もっとも、防音の壁までは通らないが――― を立てて、
2年7組の副担任・森川が忘れ物の書類を取りに戻ってきた。
車から降りて、ロックをかけようとキーを挿す。

・・・程無くして放送開始のチャイムが鳴り、全校生徒(+教師1名)は耳をすませた。

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