5.

とりあえず、計画はスタートした。
皆はまだ全く把握できてないだろう・・・この3人さえ把握できていないから。
「結局増えないんだな。」カバンを持って昇平が言った。
「まぁ、まだ不便なトコはないからね・・・。」と茂流が軽いフォロー。
「"まだ"ね。」と真音。 昇平は主語を言わなかったが、2人とも分かっていた。
これ以上話さなくてすむように、昇平は少し大きな音を立てて立ち上がった。
2人も、その合図に従って部屋を出た。

最近光を見ない。光を見ないことがあるはずはないが、なんというか気にかからない。
むしろ影をよく見る。
建物の大きな壁はともかく、正午すぎの短い電柱の影にも目を凝らす。
光を避けて影を見る、その行為があまりにあからさまに昇平の心境を表しているのは言うまでもなかった。
今は、下手な鏡よりも、影の方がよっぽど鏡だ。

広げた弁当箱を片付けている昇平に、森川は声をかけた。
昇平はすぐに反応し、廊下へ向かった。森川は、昇平にとってあまり悪い印象ではない。
教師としての出逢いでなければ、きっといい関係になっただろう。
不本意ながら昇平は、不機嫌そうに森川の横に立ち止まった。
少し下向き加減の昇平ではなく、どこか別の、遠くの方を向いて森川は一息ついた。
昇平がその深呼吸を不思議に思うと同時に、森川はこう言った。
「・・・・・・俺は、賛成派だ。」
それだけで何のことか感づいた昇平は勢いよく顔を上げた。
しかし、頭に置かれた手に阻まれた。 その手で頭を撫でながら、
「・・・頑張ってくれよ。」 と告げ、森川はその場を去った。
終始 目は合わせられなかったが、昇平は初めて教師に感動した。
ペコリと1度お辞儀をして、教室に入った。
言葉を発することさえ忘れていた。
焦って、弁当箱に箸をさかさまに入れてしまった。


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