坂を上る自転車は得てして遅い。
下る時は当然速い。
今、一生懸命に自転車をこぎながらそんなことを思った。
そして、その自転車の様子が昇平の心境とリンクしているようで怖かった。
昇平の上り調子な気分と同じように自転車はゆっくり坂を上りきったが、
坂を下っても昇平の気分は上向きなままで、
むしろ全身にあたる朝の空気がより昇平を高く持ち上げた。
昇平の家から駅までのルートにある大きな坂。
それを7時10分までに上りきれば朝課外の時間に間に合うのだが、
今日は15分も早かった。1つ前の電車に乗れそうだ。
電車を降りる。
少しでも日常を脱しようとすると、それを咎めるように
去り行く電車が突風を起こし、あまりにも律儀に髪をたなびかす。
その戒めに抗う事無く、皆決められた出口へと向かう。
高校は駅からすぐなので、降りるヒトは大体同じ制服を着ていた。
いつもより足取り軽めに昇平は校門をくぐった。
いくら気分が良くても、学校の時間は退屈で、いつのまにか掃除の時間だ。
遅く感じる上に記憶に残らないから厄介である。
廊下を森川が通った。こっちを向いたので、昇平は笑顔を作ろうとした。
しかし、その必要は無く、既に昇平の顔はほころんでいるのであった。
「・・・先生にバレてたの?」 あからさまに驚いて、真音が尋ねる。
「まぁ、そうだけど、森川なら大丈夫と思うよ。」 トーン高めに昇平が答える。
何があろうと大丈夫な気持ちであった。
"コンコン" ノックが鳴り、少し昇平はドキッとした。
返事をするとドアが開く。
瞬間、昇平の"自転車"は、急激な坂に差し掛かり急激に下り始めた。
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