4.

静かだった。無音状態よりも遥かに。
そんな中での"始まり"だった。
この広い空間を沈黙させたそれは、名づけられた"クーデター"よりもむしろ"ストライキ"に近い今の計画を学校中に伝えた。
真音は放送の最後に原稿には書いていない2つのことを付け加えた。
 この計画に全員が参加する必要はないということ。
 何か言いたいことがあれば、ぜひ生徒会室に来てほしいということ。
なぜ唐突にその2つを付け加えたかわからなかったが、そうすることで
やる気のあるなしを振り分けるためなのだろう、と昇平は自答した。
茂流がチャイムのボタンを押すと、5分前と同じ大きな音が響く。
その最後の一音の余韻が消えて、麻坂高校からは一切の音が消え去った。
もう生徒は帰っていい、だが誰もそうしようとはしない。
この張り詰めた糸を切る勇気を持つものはいなかった。
そのとき、どこかで火事なのだろう、消防車のサイレンが近づいてきた。
徐々に大きくなるその音に連れられて、半ばやむを得ず学校は時間を取り戻した。

森川は、とりあえず車を出して生徒の目に付かない場所まで走った。
「生徒たちは、そんなレベルになっていたのか」
 それは一教師ではなく、一人の大人としての見解だった。
「やはり止めるべきなのだろうか」
 これは、一教師としての意見だった。
さまざまな考えが駆け巡る中で、上回ったのは「止めるべきではない」という考えだった。
今までの職員人生を一瞬だけ振り返って、その答えの正当さを裏付けた。
小さな空き地で固まっていた森川は、エンジンをかけ直して出張先へと急いだ。

学校内にもまた、様々な思いが駆け巡った。が、それは10分前の話。
今はもう生徒はまばらである。生徒会室が昇降口近くにあることもあって、何人か声をかけてくる人もいた。
それは意見であったり批評であったりしたが、真音が望んでいた事を言ってきた人はいなかった。
「・・・3人じゃやっぱ少ないよね・・・。」どこか申し訳無さそうに真音が言う。
「・・・どーにかなるだろ。」昇平が、あえてあっさりと言い放つ。
「いや、でも・・・」
「十何人もこの部屋に入りきれるのか?」
その皮肉に真音は笑って、少し前に昇平に言った皮肉を思い出していた。
横を見ると、茂流もいつもどおり穏やかに笑っていた。

ちなみに、このときの真音の望みは叶うことになる。
無論、今の真音に"残りの2人"の予想などまったくできてもいないが。


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